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宝石辞典
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宝石は、昔から「何を買うか」よりも「誰から買うか」が大切だといわれています。これは重みのある言葉で、宝石の品質は素人にはわかりにくいので、品質のことがわかっている信用のおけるプロから買うのがよいという意味です。それでは誰が信用のおけるプロなのでしょうか。ここではまず「誰から買うのか」の目安として、どのような売り手が信用できるのかを説明しましょう。

第一に、きちんと商品説明のできる売り手は信用できます。「ジェムクオリティ」「ジュエリークオリティ」「アクセサリークオリティ」で示したような品質の違いと価値についてはっきりと説明してくれるお店は安心です。一般に「ダイヤモンドはすばらしいものだ」と考えられています。我々宝石を扱うものにとってはありがたい話ですが、たとえば次ページの3本のリングのように、同じデザイン、同じ石目方の正真正銘のダイヤモンドのリングで、上のジェムクオリティを使用したものが50万円、中央のジュエリークオリティが25万円、下のアクセサリークオリティが5万円と10倍の差があります。さらに、ジェムクオリティで素材をとことん吟味し、手を掛けたものなら本来50万円以上となり、一方アクセサリークオリティでダイヤモンドの質をさらに落とすと本来5万円以下の商品になるのです。このように、同じカラットのダイヤモンドリングでも素材と加工の品質によって、極端な場合10倍以上の価格差があるものなのです。価格が高いのか安いのかは、「美しい輝きの程度」つまり宝石の品質と作りの善し悪しを見極めて、その価値にふさわしいかどうかで決まるのです。上のリングを50万円、中央のリングを25万円で売っている所は信用のできる売り手です。しかし、下のリングをたとえ相場の5万円で売っていても、このような品質のものをお客様に勧めること自体に問題があります。なぜならダイヤモンドという名前だけで、美しさに欠け、宝石としての価値は著しく低いからなのです。品質を見極められるしっかりした商品説明を受ければ、宝石の買い物で何を選べば良いかが判断できます。

第二に、むやみに安売りをしない売り手は信用できますが、年中安売りや価格の安さを強調しているお店には疑問があります。たとえばダイヤモンドの一個石でカラーも良い、キズもOK、カットも良い、そしてとても安い、でも美しく輝かないというものがあるのです。第1章のダイヤモンドのページで、原石の善し悪しがカットされたダイヤモンドの"美しい輝き"の決め手になることを説明しましたが、この大切な部分を棚上げして、他のカラー、キズ、カットを鑑定書(正しくはグレーディング・リポート)付きを強調して価格を安く見せかけることができるのです。これは宝石に無知か、あるいは現在の鑑定書の不備を逆手にとって利用している、不誠実な売り手だといえましょう。

大切なことは、店主や仕入れ責任者が宝石を一つひとつ自分の目で確かめて、善し悪しを見分けることです。宝石の見分けは、標準化できる部分とできない部分があるからです。品質が均一な工業製品の安売りと違って、品質の定めのないジュエリーの安売りは品質を低下させるだけという事実を理解しているところが信用のおけるお店なのです。

第三に問題のある売り手は、合成石を宝石として売る店や会社です。合成石をアクセサリーとして安値な価格で販売するのは大いに結構ですが、宝石と勘違いさせるのは困ったことです。合成石は設備を整えれば大量に生産でき、自然が偶然に創った限りある宝石とは全く異なります。化学組成や結晶構造が同じということで宝石だと思うのは勘違いです。自然が創った美しいもので稀少性が高いから宝石なのであって、人間が生産した画一的で稀少性のない合成石は宝石ではありません。

近年ベトナムでルビーの採掘が始まりました。将来性のあるルビーの採掘ですが、産地での合成ルビーの混入が多いといわれています。業者は警戒し、ルビーの原石入手を控えるようになってしまいます。我々が1個1個検査すれば判明することですが、現地での原石ビジネスでは待ったなしの即決です。また、日本企業の合成ルビーが原石で輸出されていると聞きます。発展途上国の新しい産業に水をさし、結果的に妨害をしているのと同じことになります。合成石の生産を可能にした技術者の力には敬意を表しますが、それを後先考えずにバラまいたり、宝石と勘違いして販売しているのがどれほど的を外れたことなのか、そろそろ気づいてもらいたいと思います。合成石生産者は、合成石と天然宝石とを容易に区別できるような特徴を持たせて生産し、新しい合成石市場を開拓してもらいたいものです。合成石を宝石と匂わせて販売しているがきり、それは偽物売りの域を出られません。

どのような店が良い店なのか、それは二重価格や大幅値引きをしない店、自店で品質をきちんと説明したうえで、責任を明確にして販売しているお店です。海外で宝石を買う場合についても、その小売店の信用が鍵となります。小売業務に関わる経費がかかっているのはどこの国でも同じで、卸値と提示されてもそれは小売値であるわけです。またルースの宝石を買う場合には、どこで作るかを考えなければなりません。ジュエリーの場合は、デザインと作りの善し悪しも重要だからです。外でおいしい料理を食べようと思ったら、いいお店を選ぶのと同じことです。宝石は末永く使われて受け継がれていくものですから、売り手の責任は非常に重いのです。

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