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宝石辞典
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欧米ではオークションが盛んです。クリスティーズの創立は1766年、サザビーズが1744年、ともにイギリスからスタートし、現在はアメリカをはじめ世界中で活動しています。しかし売り物は欧米で蓄積されたものが大半で、ジュエリーも絵画、骨董、家具などとともに主要仲介アイティムになっています。大半が20世紀になって作られたもので、古代ギリシャ、ローマ時代のものが出品されるわけではありません。第2次世界大戦後まだ数十年といったものも多く、これはジュエリーが思ったより早いサイクルで還流していることを物語っています。

オークション業つまり仲介業は、宝石の流通の一端を担っているといえます。家宝として次の世代に受け継がれていくジュエリーは別にして、オークションにかけられるのは、宝石という財産を換金したい、受け継いだ人がそれを気に入らないなど多様な理由からですが、いずれにしても資産の蓄えがあることが前提です。欧米では、いわゆるジュエラーもエステイト・ジュエリーコーナーを設けて、売りたい人のものを預かって買いたい人につなげるビジネスをしています。アメリカでは1980年にこの手のコーナーが急速に増えましたが、世代交代期になっていることと経済状況がよく反映されているのでしょう。

日本では、欧米のように宝石を売る所がないとしばしばいわれます。これは的外れな観察です。なぜなら日本は未だ宝石の買い手なのであって「使って十分楽しんで、次の世代にどんどん受け継がれている」という段階ではないのです。国民全体を見ると、十分に宝石やジュエリーのストックがあるところまで達していないのです。買ったものがすぐに売れる所を作ろうという考えを時に耳にしますが、そこにはどんな意味があるのか疑問です。

私も何回かクリスティーズ、サザビーズの宝石オークションに参加して、パドルを上げて落札したことがあります。欲しいものはなかなか買えないもので、会場の200名程度と、事前の札入れ、国際電話のオファーと競って、その最高値を取らないと自分のものにはならない仕組みなのです。

時に見込価格で100万円程度のものが3倍の300万円に上昇することがありますが、そういうジュエリーは、「素材が良い」「デザインが良く、現代でも十分通用する」「作りが良い」の三拍子がそろっています。そのうちの一つでも極端に劣っている場合には、見込価格に達せず引取不成立となってしまいます。"受け継ぐ人に喜ばれるもの"は一族の誰かに譲るにしても、仲介する人を通して他人に転売するにしても、この三要素を備えていることが大切です。

オークショニアー( 競売人 )・クリスティーズのオークション 会場にて
素材が良いということは、たとえばダイヤモンドの場合、色がEカラー以上でキズのグレードがVVS以上云々ということではありません。透明度の高いカットのバランスのとれた美しく輝くものであることが条件で、色はGカラー以上、キズはSI1以上ならば細かいことは不問です。またオークションではGIAのグレーディング・リポートも提示されますが、これが添付されるのは主に3カラット以上の稀少性の高いもので、ファンシーカラーダイヤモンドを除いて、1カラット未満のものにグレーディング・リポートが添付されることはあまりありません。カラーストーンでは、モゴック産ルビーやカシミール産サファイヤにはグベリン宝石研究所などの、原産地を記した鑑別書がつけられています。オークションに参加すると「受け継ぐ人に喜ばれるもの」は何かということを認識させられます。またオークションは、売り手と書い手からのそれぞれ6~15%の仲介料で成り立っています。
還流商品は新産宝石の採掘と肩を並べる宝石の大切な供給源です。大粒のダイヤモンドは、還流商品が新産宝石をはるかに超えているようです。数年前にデ・ビアスのニッキー・オッペンハイマー会長から、新産の原石から研磨されるラウンドの5カラットのDカラー、フローレスは年に1~2個しかないと聞いたことがあります。ニューヨークでは年間を通して4~5個あるのを耳にしますが、それらは明らかに還流商品です。還流の過程ではダイヤモンドをはじめカラーストーンも、大粒のものは表面が磨かれ(リポリッシュ)で新品に仕上げられます。小粒宝石のものはジュエリーとして還流されます。丁寧に使われていたかどうかが、作り、デザインの良さとともに受け継がれていく価値を左右します。
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