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6.宝石の欠点
 
宝石のプロは必ず10倍のルーペで宝石を検品します。耐久性を低下させる欠点、黒く見えるインクルージョンなどの心地よくない欠点、仕上げの善し悪しを検査して取り扱うのに適しているかどうか、また、研磨し直してからジュエリーにするかどうかの決定をします。このようなところに、各メーカー、各店の特徴が生まれ、ジュエリーの品質の差が生じます。

アントワープの私の友人のダイヤモンドカッターは、夫人に5カラットのSI1クラスのダイヤモンドを贈りました。フローレス(10倍の拡大で内部、外部にインパーフェクションのないもの)に比べ、格段に安かったからです。見栄で大きいものを選んだといわれそうですが、事実は違うのです。5カラットノSI1は10倍の拡大で見ると結構大きなキズですが、この場合は透明な結晶のインクルージョンでした。もちろん肉眼では見えません。むしろ天然の証として大切なものです。もし、これから頻繁に合成ダイヤモンドが市場に出回るとすると、天然であることを示すインクルージョンは、美しさを損なわない限り貴重であるという評価になって、プレミアがつくかもしれません。

一方、ガードル回りにクリーベッジ(劈開)が存在すると、ダイヤモンドとして大きな欠点となります。なぜならクリーベッジは石留めの時に欠けたり、着用中に一定方向に強い力が加わると、破損する可能性が無きにしもあらずだからです。このようにSI1と等級付けされても、この二つの宝石の本質的な価値はまったく異なることを理解する必要があります。前述のSI1のダイヤモンドは透明度が高く、輝き、7色の分散光、きらめき、姿の調和のとれたものであるうえに、価格もこなれた、ほんとうに納得のゆくものだったからこそ、プロ中のプロが求めたのです。

ダイヤモンド・グレーディングレポートは、ちょうど健康診断の検査結果のようなもので、同じ数値であっても若い人、中年、老人では診断が異なるのに似ています。医師は一人ひとりの患者にとってそれが問題なのか、そうでないのかを見極めます。同じように、宝石商は一つひとつのケースについて、問題ないものか、欠点なのかを判断しなければなりません。良心的な宝石商は、肉眼で見えなくても爪下にキズを隠さないこと、黒く見えるインクルージョンのあるものはジュエリーに使用しない、という品質基準を作り、かたくなに守っています。日本ではダイヤモンド・グレーディングレポートが重要視されていますが、宝石の本質的な品質は、その分析結果からだけでは判断できないのです。
含浸処理はエメラルドだけでなく、低品質のファセットカットのルビー、また一部のカボションカットや、低品質のダイヤモンド(鉛ガラス含浸)に施されています。オイルなどが抜けると、まったく見るに耐えない元の姿に戻ってしまうので、避けることが大切です。

次ページ右下の写真は、モンスー産ルビーのテーブル面とクラウンファセットの稜線のスリキズです。完成度の高いジュエリーには、このような仕上げ不良は許されません。きれいに仕上がっているものでも、モンスー産加熱処理ルビーは高温処理の結果、靱性(粘り強さ)が低くなっています。ジュエリーの保管が悪いと石と石が摩擦を起こし、キズがつきやすいので注意が必要です。写真の上のルビーは、稜線がジャープに出ている完成度の高いものです。また、アクアマリンよりもロードライトがキズつきやすいなど、宝石種によって脆さに差があります。

お客様からお預かりする商品は、宝石商はきちんとプロット(キズの種類を図表に記入すること)をして、できあがった時に確認できる手だてが必要です。大部分のケースは問題ありませんが、誤解が発生した時の解決の糸口とすることができます。キズ(不完全性)のプロットは、自社製品にマイナスイメージを与える恐れがありますが、キズは天然の証でもあるという肯定的な説明をして、宝石のすばらしさをアピールしたいものです。

プロは、天然パパラチヤ・サファイヤやブルージルコンの褪色、エメラルドの経年変化やリカットが困難になるケースなどに、注意を払う必要があります。
宝石の美しさと濃淡は、消費者もプロも同じレベルで判断できますが、インクルージョンや処理が欠点であるか否かの判断は、プロの領域です。GIAは共通の言葉と、品質分析の手法を宝石学として教え、その普及に努めています。宝石学修了者は、業界に入って実務を通し、美しさの判定と欠点の判断ができるジュエラーに成長してもらいたいものです。美しく、そのうえ耐久性に影響する欠点がないことを、プロが確認したものが誰にでも自信を持ってすすめられる宝石なのです。
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