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宝石の価値
 

宝石の装身具には使って楽しむ価値と交換価値とがあります。宝石の装身具はいくら使っても使用価値は変わりません。そして買った値段ではありませんが、よいものは交換価値を持ち続けます。新車を買ってもすぐに売ると値段は半分近くになるのは常識です。ディーラーがかけた販売費用などが失われてしまうからです。宝石の装身具も買ったものをすぐに売ると価値は大幅にさがります。宝石はゴールドと違って手数料で売買されるものではないからです。消費者間のジュエリー販売のケースを別にして宝石の装身具には他の商品と同じように流通経費がかかっているので小売価格と交換価格は異なるのです。

世の中には宝石のようであって宝石でないものがあふれています。ガラスや合成石は宝石ではありません。実は第3章の1で述べた宝石の種類の見分け方は宝石と宝石でないものの分類でもあるのです。またオーストラリアのサファイヤは大きくても黒いので主石としては装身具の役割を果たせないのです。そしてオイルや樹脂によって極端な処理をされたものも宝石としての価値はないに等しいのです。一方、無処理の格の高い宝石であっても美しさに欠けたり、濃さが中途半端であったり、欠点のあるものは宝石と呼ばれていても本質的には宝石でないのです。また貴金属のジュエリーにアクセントとして小粒のダイヤモンドや他の宝石があしらわれていてもそれは宝石の装身具ではありません。これらのものは値段が数千ドルしたとしても宝石の装身具としての価値はないのです。

フランスの宝石商ダベニール(1605〜1689)がインドへ6回の旅をして、「The Six Voyages」を著したのは1676年ですが、ダイヤモンドの価値は「重さの2乗で計算する」と書かれています。この公式は、現在ではあてはまりません。王侯貴族に大きく希少なダイヤモンドを売っていた当時と、大衆に売る小粒のダイヤモンド主流の現代ではちがいます。

需要と供給がそれに合わせて変わったからです。1896年にマックス・バウワーは、貴石の価値は、美しさと耐久性のみで決まるのではなく、外部の諸条件によって影響を受け、そして変動すると述べています。ダイヤモンドは17世紀にインドからの産出が少なくなるにしたがって値上がりし、1725年のブラジルの鉱山の発見で急速に値下がりし、1866年の南アフリカ鉱山発見までに徐々に値上がりしました。供給が少なくなると高くなり、新しい鉱山が発見されると安くなります。需要は景気と戦争に左右され、供給は蓄積されたものの放出にも影響され価値が変化します。

1980年2月、1カラットのDカラー・F1のラウンドブリリアントカットのダイヤモンドが、6万5,000ドル(当時の邦貨で約1,600万円)に値上がりしました。これは、米国でダイヤモンドが投資の相場商品にされたのが原因です。ピーク直前の4万ドルになった時、ニューヨークタイムズにティファニー社の社長が、「ダイヤモンドは今、高すぎるから買わないほうがいい」という趣旨の広告を出したのを鮮明に覚えています。宝石は、相場商品(コモディティ)でないことを認識させてくれた、勇気ある発言でした。その後しばらくして1万2,000ドル前後に値下がりし、投機をした人たちは多大の損害をこうむり、米国の多くのダイヤモンド業者とその投資会社は倒産しました。相前後してルビーにも投機需要が起こり、市場は暴騰暴落しました。当時、米国ではグレーディングレポートをベースに相場を作っていたということが問題であったのです。

このようにシステムや制度が、一時的に宝石の価値を変えるのです。再度同じようなことが起こって、宝石の信頼性低下を招かぬように、我々は本質的な宝石の価値ー美しさを楽しみ、心地よさを感じる価値ーを明確にする必要があります。それを世界中の業者が共有し、常日頃から一般的に広報することが必要です。

宝石の価値を判断して、金額を示すことを査定といいます。鑑定とか評価とかいろいろな言葉が使われますが、同じ意味と考えて間違いないと思います。査定は「価格が価値に見合っているか」という立場で貫かれています。購入者の使用価値とか将来の残存価値は、折り込まれていません。そして査定の金額には、目的によって少なくても3種類の違いがあることを知らなければなりません。
1. 保険金支払いの為につけられる金額(保険価額)
2. オークションや個人間販売に見られる見積もりの金額(再販売価額)
3. 製品加工のコストを含まない素材のみの金額(素材価額)
Signed piece(一流ブランドの打刻のあるジュエリー)に代表される美しいジュエリーには、時代を超えた価値があります。オークションで時々エスティメート価格の3倍で売れていくのを目の当たりにすると、宝石の装身具の価値の幅は広いという現実が認識できます。

手に入れたものが適正価格であるかどうかを心配したくなかったら、まず良いお店を選ぶことです。きちんとした説明ができて、値引きを売りにしない、そして品質にこだわっている店から買えば後々の心配は無いのです。そしてそういうお店では自分の気に入るスタイル選びに集中でき良い買い物に繋がります。また、本書などで品質の見分け方を勉強し、自信を持っていくつか買ってみれば、やがて、他のジュエリーとの比較ができ情報の質が上がり、品質の善し悪しが分かってきます。どんなことにも共通しますが、最終的には自分の見る眼を養うことが、失敗のない品選びの第一歩です。自分で美しいと納得したものを、自信を持って身につけることが大切です。他人のいうことや、品質分析書をうのみにして、自分では美しさのわからないものに、価値はないのです。
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