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宝石辞典
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コーラル(珊瑚)は植物でも鉱物でもなく、海中の微生物によって作られます。主成分は真珠の外皮の部分と同じ炭酸カルシウムで、人間に一切手を加えられることなく、自然の時間の中で少しずつ成長してきたものです。コーラルは昔から魔除けの効果があり、幸運を呼ぶといわれ、古くは古代ギリシャ・ローマ時代にも盛んに使われていました。また地中海の赤い珊瑚は、日本では胡渡りと呼ばれ、シルクロードを経由して奈良時代(710~784年)に持ち込まれました。

上の写真は直径9ミリの美しいピンク・コーラルがつけられたリングです。両側に良質のダイヤモンドがしきつめられています。右の写真のネックレスには、色ムラや亀裂の少ない美しい粒が揃っています。

宝石珊瑚の採取は底引き網から始まり、20世紀中頃から、潜水による方法になりました。現在では深海でロボットが活躍し、資源を守りながら採取されています。ワシントン条約で採取が規制されているのは六放珊瑚(ソフト・コーラル)という、珊瑚礁を造っている種類で、ジュエリーに使われる八放珊瑚とは別種のものです。

日本では1868年に珊瑚漁が解禁になり、20世紀になると、地中海におけるコーラル・ビジネスの中心地イタリア南部のトレ・デ・グレコへの輸出が盛んになりました。日本で古くから好まれていたのは地中海の赤サンゴでしたが、イタリアの珊瑚商人たちは、日本で採れる色の淡いコーラルの美しさに目をつけました。彼らは特に、日本では「ボケ」といわれていた、淡めのピンクでムラのないエンジェル・スキンを「シャルボ=色褪せた」「インシニフィカンテ=つまらない」などと呼び、値が上がらないようにしました。美しさへの理解の深いイタリア人の、心憎いビジネスぶりを賞賛したいと思います。

コーラルはレモンや酢などの酸におかされやすいので、現在では特殊な加工によって、表面を保護しているものもあります。また硬度は31/2と低く、ほかの宝石と離して保管し、使用後は柔らかい布で拭くことが、美しさを保つ秘訣です。

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