諏訪恭一、ジュエリーを語る

7. 指輪88。

rightright

4年程前から橋本貫志コレクションの「指輪を手に取る会」のお手伝いをして来ました。橋本氏は1989年から14年間で、850点の紀元前2000年から現代までの指輪を、サザビーズやクリスティーズのオークションで蒐集(しゅうしゅう)されました。その中の王家のアメシストの指輪、前代未聞のダイヤモンド、マリーアントワネットの髪の毛が納められた指輪等88点を選んで、淡交社より5月20日発刊予定で進めているのが「指輪88」です。

その時のその人になって手に取ってみると、当時の技術、交易、文化が見えてきます。王家のアメシストには石に穴が貫通されています。4000年前にどのように穴があけられたのか不思議です。6~8世紀のビザンチンのエメラルドの指輪を見ていると、このエメラルドはどこから届いたものなのか、分析して産地同定が出来たら交易の定説が変わることになるかも知れない等と思いながら見て来ました。

指輪は「想いを入れておく箱」です。人の想いは、見る事も手に取ることも出来ません。しかし、指輪に込められた想いは、指にはめて確認し、それを他人に伝えることが出来るのです。

指輪は幸せ、信用、愛、庇護、所属の証であったのです。だからこそ指輪は人にとって特別な存在として数千年も前から大切にされて来たのだということが、歴史的な指輪を通じて改めて認識出来ました。「指輪88」を読むと、皆さんのお手持ちの指輪をはじめ、私達の指輪観が変わるかも知れません。

4Cは素材のコストであって、ジュエリーの美しさや価値に比例しません。料理が下手だと、良い食材を使っても、旨いものにならないのと似ています。美しい装い、旨い味が価値の本質です。

2011/3/14

写真右 : 指輪88 /
四千年を語る小さな文化遺産たち
A5判 224頁定価 2,100円(本体2,000円)
淡交社

指輪88